
電子記録債権とは?でんさいとの違い・仕組み・資金化の方法をわかりやすく解説
公開 2026-08-01更新 2026-08-24ファクット編集部
電子記録債権は電子記録債権法にもとづく第三の金銭債権で、記録機関の原簿に記録することで発生・移転する。混同されがちな『でんさい』は数ある記録機関のひとつ、でんさいネットが扱うものの通称にすぎない。定義・4つの記録・手形との違い・資金化の3つの出口までを、実務の判断に必要な順で整理する。
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「取引銀行からでんさいの案内が届いた」「取引先から電子記録債権への切り替えを打診された」——2026年に入って、こうした相談が急に増えている。紙の約束手形・小切手の銀行取扱いが2026年度末で終わることが背景にある。
ところが、いざ調べ始めると最初につまずくのが用語だ。「電子記録債権」と「でんさい」は、多くの解説記事で同じものとして扱われている。これは正確ではない。 そして、この違いを知らないまま取引先に「でんさいは使っていますか」とだけ尋ねると、判断を誤ることがある。
ここでは、電子記録債権の定義・でんさいとの関係・4つの記録による仕組み・手形との違い・受け取った債権を資金化する方法を、実務で判断する順に整理する。
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電子記録債権とは:手形でも売掛金でもない「第三の金銭債権」
電子記録債権は、電子記録債権法(平成19年法律第102号、2008年12月施行)にもとづく金銭債権だ。最大の特徴は、電子債権記録機関が管理する記録原簿に「記録」することで発生し、移転するという点にある。
紙も要らないし、当事者間の契約書も債権の存在を証明する主役ではない。記録原簿への記録そのものが権利の根拠になる。
日本の商取引で使われてきた金銭債権は、長らく次の2つだった。
| 売掛債権(指名債権) | 手形債権 | 電子記録債権 | |
|---|---|---|---|
| 権利の根拠 | 当事者間の契約 | 紙の手形の所持 | 記録原簿への記録 |
| 存在の証明 | 請求書・契約書など | 手形現物 | 記録機関が証明 |
| 二重譲渡のリスク | あり | 低い | なし |
| 分割 | 実務上むずかしい | 不可 | 可能 |
| 印紙税 | 不要 | 必要 | 不要 |
| 紛失・盗難 | — | リスクあり | なし |
電子記録債権は、この2つの弱点をつぶすために後から設計された「第三の類型」だと理解すると腹に落ちる。売掛債権の弱点である二重譲渡と存在の不確かさ、手形の弱点である紙のコストと分割不能を、記録原簿という仕組みで同時に解決している。
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「電子記録債権」と「でんさい」は同じではない
ここが本記事でもっとも伝えたい点だ。
- 電子記録債権 = 電子記録債権法にもとづく金銭債権の総称(法律上の概念)
- でんさい = 電子債権記録機関のひとつ、株式会社全銀電子債権ネットワーク(でんさいネット)が取り扱う電子記録債権の愛称
つまり、でんさいは電子記録債権の一種であって、イコールではない。「コピー機」と「ゼロックス」の関係に近い。
電子債権記録機関は主務大臣の指定を受けた法人で、でんさいネット以外にも複数存在する。全国の金融機関が共同で設立したでんさいネットが最も広く使われている一方、メガバンク系の記録機関や、Tranzaxのように独自のスキームを提供する事業者もある。
でんさいと電子記録債権を混同すると何を間違えるのか
実務上、この違いは3つの場面で効いてくる。
1. 取引先への確認のしかた 「でんさいは使っていますか」とだけ聞くと、別の記録機関を使っている取引先から「使っていない」という答えが返る。正しい問いは「電子記録債権を利用していますか。利用している場合はどの記録機関ですか」だ。
2. 当事者が同じ記録機関にいる必要がある 電子記録債権は、支払企業と受取企業が同じ記録機関に参加していなければ発生させられない。相手がでんさいネット、自社が別の記録機関、という組み合わせでは取引できない。記録機関をまたいだやり取りはできないと考えておく。
3. ルールが記録機関ごとに違う 支払不能時の処分、取扱金額の下限・上限、割引の取り扱いなどは記録機関の業務規程で決まる。「でんさいの説明」として読んだ内容が、別の記録機関にそのまま当てはまるとは限らない。
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仕組み:4つの「記録」で動く
電子記録債権は、原簿への記録の種類で動きが決まる。実務で押さえるべきは次の4つだ。
発生記録 債権を生み出す最初の記録。支払企業(債務者)が「いつ・いくら・誰に支払うか」を請求し、原簿に記録された時点で債権が生まれる。紙の手形を振り出す行為に相当する。
譲渡記録 債権を他人に渡す記録。手形の裏書に相当するが、紙をやり取りする必要がない。
分割記録 紙の手形にはない、電子記録債権最大の機能。500万円の債権のうち200万円だけを切り出して譲渡できる。手形は額面全額をまとめて扱うしかなかったため、「300万円だけ資金化したいのに500万円の手形を割り引く」という無駄が生じていた。分割記録はこれを解消する。
支払等記録 支払いが完了したことを記録し、債権を消滅させる。多くの場合、支払期日に指定口座間で自動的に決済され、記録も自動で行われる。
この4つがすべて電子的に処理されるため、振り出し・裏書・取立てにかかっていた紙の手間が丸ごと消える。
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でんさい(電子記録債権)のメリット
- 印紙税がかからない——手形は額面に応じた印紙税が必要だった。年間の発行枚数が多い企業ほど効く
- 紛失・盗難・偽造のリスクがない——保管の手間も金庫も要らない
- 分割できる——必要な額だけを資金化でき、余計な割引料を払わずに済む
- 事務が軽い——郵送も持参も不要。支払期日には自動で決済される
- 二重譲渡が起こらない——記録原簿で一元管理されるため、譲受人の地位が安定する
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でんさい(電子記録債権)のデメリット
- 取引先も同じ記録機関に参加している必要がある——自社だけ準備しても使えない
- 利用開始に審査がある——取引金融機関を窓口とした申し込みと審査を経る
- 支払不能処分がある——支払期日に口座残高が不足すれば支払不能となる。でんさいネットでは6か月以内に2回で取引停止処分となり、紙の手形の不渡りと同じ重さで扱われる
- 割引には自社の信用力が問われる——次章のとおり、割引は融資と同じ扱いになる
「電子化されたから審査が緩くなる」ということはない。支払いを約束する重さは手形と変わらない、というのが実務上いちばん大事な認識だ。
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受け取った電子記録債権を資金化する3つの出口
支払期日が60日先、90日先という債権を受け取ったとき、選択肢は3つある。
① 期日回収——待つ 支払期日に指定口座へ自動入金される。手数料はかからない。資金繰りに余裕があるならこれが最も安い。
② 割引——金融機関に買い取ってもらう 支払期日前に金融機関へ譲渡し、割引料を差し引いた額を受け取る。手形割引の電子版にあたる。低コストだが、融資と同じ扱いになるため自社の財務状況が審査される。さらに償還請求権が付くのが通常で、支払企業が支払不能になれば自社が負担することになる。
③ 譲渡——支払いに充てる 自社の仕入先への支払いに、受け取った債権をそのまま回す。分割記録を使えば、必要な額だけを切り出して渡せる。
割引が使えないときにどうするか
赤字決算や創業間もない事業者は、②の割引枠を確保できないことがある。取引先がそもそも記録機関に未参加なら、電子記録債権自体が発生しない。
この場合に残る選択肢が、売掛債権そのものを売却するファクタリングだ。ファクタリングは自社ではなく売掛先の信用力を中心に審査されるため、自社の財務が痛んでいても利用できる可能性がある。ただし割引より手数料は高く、それは償還請求権がない(=回収不能リスクを買い手が負う)ことの対価でもある。
どちらを選ぶかは、取引先の記録機関参加状況と自社の財務状況の2点でほぼ決まる。判断の手順は下記の記事に整理してある。
関連記事:ファクタリングとでんさいの違い|使い分けは2つの問いで決まる
ファクット掲載213社の実勢手数料は、手数料指数(FFI)で毎月更新している。割引料と比べる際の基準として使ってほしい。
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でんさい(電子記録債権)の利用を始める手順
電子記録債権の利用は、取引金融機関の窓口から始まる。記録機関に直接申し込むのではない点に注意したい。
- 取引先の状況を確認する——電子記録債権を利用しているか、しているならどの記録機関か
- 取引金融機関に相談する——自社が使いたい記録機関を扱っているかを確認する
- 利用申込と審査——法人・個人事業主とも、金融機関の審査を経る
- 利用者番号の付与——記録機関から番号が割り当てられ、利用開始となる
- 社内の運用を決める——誰が発生記録を承認するか、譲渡の決裁ラインをどうするか
審査から利用開始まで数週間かかることが多い。取引先から切り替えを打診されてから動くと間に合わないことがあるため、打診を受ける前に取引銀行に相談しておくのが安全だ。
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よくある質問

Q電子記録債権と「でんさい」は同じものですか?
Q電子記録債権は手形と何が違うのですか?
Q電子記録債権を受け取ったら、期日まで待つしかないのですか?
Q個人事業主でも電子記録債権を使えますか?
Q取引先が電子記録債権に対応していない場合はどうすればよいですか?
Q電子記録債権(でんさい)は新しい制度ですか?
Qでんさいなら支払不能になっても手形より軽く済みますか?
Q電子記録債権があればファクタリングは不要ですか?
まとめ
- 電子記録債権は記録原簿への記録によって発生・移転する第三の金銭債権で、売掛債権と手形の弱点を同時に埋める設計になっている
- 「でんさい」は電子記録債権の一種(でんさいネットが扱うもの)であり、総称ではない。取引先には「どの記録機関か」まで確認する
- 動きは発生・譲渡・分割・支払等の4つの記録で決まる。なかでも分割記録は紙の手形にない機能で、必要な額だけを資金化できる
- 印紙税と紛失リスクは消えるが、支払いを約束する重さは手形と変わらない
- 受け取った債権の出口は期日回収・割引・譲渡の3つ。割引は融資扱いで自社の信用力が問われ、償還請求権が付く
- 割引が使えない場合や取引先が未参加の場合は、売掛債権のファクタリングが代替手段になる
紙の手形が消える流れのなかで、電子記録債権は「手形の置き換え」として語られがちだ。しかし実際には、分割できるという一点だけでも、資金繰りの組み立て方は手形時代と変わる。まずは取引先の記録機関参加状況を確認するところから始めたい。
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